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武器を持っただけじゃ、ラスボスは倒せない ──FPVドローンパイロット・坊が辿った五年の現場史

May 03, 2026
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### 長野のロケ現場で、初めてFPVを見た

坊はもともと音楽をやっていた人間で、その流れでミュージックビデオをメインにした映像の仕事に就いた。現在は映像プロデューサーとドローンパイロットの二足の草鞋で、稼働の比率はほぼ半々だという。FPVドローンと出会ったのは約五年前、長野で行われた二泊三日のMVロケの現場でのことだった。自分の仕切りではない現場に、FPVのパイロットがひとり呼ばれていた。

 

「FPVなんて、なんとなく聞いたことあるなぁぐらいの認識で、どういうのが撮れるとかも、どういうものかも分からなかったんですけど」

 

泊まり込みで同じ宿舎に泊まり、食堂で一緒に飯を食う中で「面白そうだな」という気持ちが芽生える。同行していた知人のえりんぬに「やりましょうよ」と勧められ、「じゃあやるやる」と返事をした。

後日、電話で「とりあえずここに行ってこれを買ってください」と店を指定される。坊が向かったのは千葉のゴールドストーン。たまたま移転オープン翌日で店内は混雑し、店長にもあまり構ってもらえず、最低限のレクチャーで機材一式を買って帰った。

 

機材構成は、アナログVTX、ゴーグルはオルカ、プロポはT16。機体は三機。練習用のモブラ、3インチのiFlightプロテック、5インチのナズグル。リモートIDの装着義務化前夜、ギリギリのタイミングだった。総額は十五万円から二十万円。

「自分の性質上、わりといい加減な人間だと思ってるんで、課金して環境を作るとか。その環境を作らないと自分は動かないと思ってるんで」

最初から趣味ではなく仕事として活かす前提で、レースには興味がなかった。

 

 

# アームしねえ、で一日が終わる

しかし、現実は厳しかった。実機は飛ばせない、店舗で勧められたシミュレーターはダウンロードしたものの設定も練習方法も分からない。四〜五年前、ネット上の情報量は今よりはるかに少なく、ハンダ付けも高校の授業以来というレベルから始まった受信機装着は、外国人YouTuberの動画を頼りに進めるしかなかった。

「アームしねえ、調べて1日かけてやっとできた、みたいな」

本業も忙しく、一、二か月まったく触らない時期も挟まった。それでも諦めなかったのは、自分のディレクションする現場でドローンを入れたいという案件が増えていたからだ。外注すれば費用も調整工数もかさむ。「自分が飛ばせたら楽じゃね?」というシンプルな動機があった。

 

# DJI Mavic 3 Cine、購入二日後に現場本番

そんな矢先、急遽ドローンが必要な案件が入る。FPVしか手元になかったため、その日のうちにSEKIDOに走り、出たばかりのDJI Mavic 3 Cineを購入。価格は約七十万円。翌日に少しだけ練習し、その翌日が現場本番という、ほぼぶっつけのスケジュールだった。

「分からんけど、これなら飛ばせるかなって。その次の日現場みたいな」

仕上がりを後から見ると、初日二日目とは思えない出来のMVになっていた。坊は自身を「ある程度のところまでは人より早くできる器用貧乏なタイプ」と評し、空撮機の扱いはすぐにそれっぽくこなせるようになったと語る。

問題はFPVのほうだった。二十万円以上を投じた機材を遊ばせたくない。誰かに教わったほうが早いと探していた折、横田氏が運営するオンラインサロンに学割で加入した。FPVを始めて半年のころのことだ。ところが多忙で三か月ほど放置。ある日サロンを覗くとスクール一期の募集はすでに締め切られており、新規入会者には三十分から一時間のZoom面談がある旨の案内が出ていた。「するか」と軽い気持ちで横田氏と話したのが、両者の関係の始まりとなった。

世間話のさなか、横田氏が翌月モンゴルに飛ぶという話が出る。案件と練習を兼ねた渡航だった。坊は即興でスケジュールを開き、「行っていいすか?」と切り出す。「おいよ!」の一言で同行が決まった。実物に会うのは成田空港が初めて。インターン予定だったカイは直前で帰国扱いとなり、坊と横田氏の二人で出発する。フライトは大幅遅延し、バウチャーが配られるほどだった。

 

# ゴビ砂漠で、初めて外で飛ばした

モンゴル渡航前、坊はDJI FPVと別のアナログ機を追加購入していた。だが現地初日、後編で自走させていた最中の操作ミスで一機を破壊。約八号サイズの機体で、対応するバッテリーと予備パーツが残りの二週間ずっと邪魔な荷物になった。

ゴビ砂漠で、坊は初めて3インチを屋外でまともに飛ばす。プレミア一期生の二名のうち一人は四〜五年のキャリアを持つベテラン、もう一人は中堅。横田氏と合わせ、周囲はバンバン飛ばす中、坊一人がビビり倒していた。

「ビビってんじゃねえよって言って、はい飛ばして、ピッチ倒して、横でめちゃくちゃ笑って、やばいやばいやばいって言って」

別の日には、別の3インチを単独飛行中、空中でアームを切ってしまい墜落、搭載していたGoProは粉々になった。これが初めて壊したGoProだという。スクール二期の開講が間近に迫っていたタイミングでもあったため、その場で「行きたい」と意思表示し、横田氏に問い合わせてもらった末、モンゴルから受講料約六十万円を振り込んだ。「環境を作るためにも、また大金を課金しました」と振り返る。

 

# プレミアドローンには半分しか行けなかった

帰国後に始まったプレミアドローンの講座だが、坊の出席率は半分ほどだった。徹夜明けの現場から群馬の会場に向かう途中、近くの道の駅やパーキングで気絶し、起きたら夕方──そのまま顔だけ出して帰る、ということもあった。卒業時点でシミュレーターの累計時間は百時間に達していない。それでも器用貧乏が功を奏し、必要箇所を聞き取りや独学で補いながら、最低限のラインはクリアしていった。プレミア中から並行して、3.5インチにGoProを搭載し陸上競技場で疾走する、といったMV案件もこなしている。

MVのFPV撮影は、いわゆるワンカット長回しとは性格が異なる。リズムに合わせてカットが切り替わるため、欲しい絵を三秒切り取れれば成立する世界だ。

「美味しいタイミングを3秒撮れたらいい、一球入魂じゃないですか? この一瞬を絶対に撮ってやる、この角度から、みたいな」

音楽出身ゆえの「美味しい瞬間」を捉える嗅覚が、撮影にそのまま流用できた。

 

# トヨタの船で、もう一段上がる

転機はトヨタ案件で訪れた。広島でのロケ班に同行していたところ、トヨタ側の担当者が「四、五億のクルーザーの中をFPVのワンカットで撮ったら面白くないですか」と言い出し、その場の上司、そして会長にまで企画が通ってしまう。最終カットでは豊田章男会長に機体をキャッチさせる、という構成までが上がってきた。

坊は二、三週間前にようやく時間を確保し、当時のYDL(プレミアドローンの後継スクール)の練習場へ通い始める。撮影機(シネクロのワンライト相当)用に4セルバッテリーを約八十本買い込み、機体を組む時間も惜しんでビルダーに同型機を三機制作してもらった。再びまとまった額の課金だった。

「スタジオに10回入るより、多分ライブ1本やったほうが成長するんですよね」

音楽の現場で得た実感を、坊はそのままドローンに当てはめる。本番に強いというより、本番で成長するタイプ。ADHD気味の過集中と相まって、ある瞬間に能力値が一気に跳ねる。トヨタの船の案件は、坊の自己分析する成長曲線の中で、明確に一段階を押し上げた事例として語られる。

 

# 横田氏に学んだのは、操縦ではなくディレクションだった

坊が横田氏に教わって最も価値があったと語るのは、飛行技術そのものではない。

「飛行技術っていうより、ディレクション能力。お客さんはこういうものを望んでるから、こういう提案をして、こういう運びをしたらいいよねみたいな、そういうお客さんの対応を含め、ディレクションする能力がすごく高いなと」

クライアントワークの組み立て方は、現場に同行する中でしか学びようがない。坊は「盗んだと言うのもおこがましい」と前置きしつつ、その視点が自身の活動全般に活きていると語る。

 

# 「YDLは、武器を取りに来るだけの場所じゃない」

近年のYDL(Yokota Drone Lab、横田氏主催のドローンスクール/コミュニティ)の入会条件には、シミュレーター100時間以上といった具体的なハードルが課せられている。坊はこれを「本気でやりたい人にとっては当たり前の話」と断じる。FPVに惹かれて来たい人へのメッセージを問うと、ドラクエの比喩で答えた。

「FPVは最初の村でいきなり強い武器を拾うようなもの。見たことない人に映像を見せたら『うわー』ってなる、ある意味チート。でも基礎力がないと、中盤のダンジョンすら攻略できない」

YDLは、武器そのものに加えて使い方を渡し、攻略の道筋を一緒に考え、別のダンジョンに同行できる仲間とも出会える──「ドラクエで言うルイーダの酒場」のような機能を併せ持つ場所だ、と坊は説明する。アシスタントを連れて行くか否かの判断基準も明快で、技術力の高低より「素直で、誠実で、気が利く」ことを優先する。電話一本で先回りして動ける配慮、メイン稼働者の意図を汲む想像力。「自分が自分が」が前に出る人とは現場が回らない。

「やりたいという意思があって、頑張れる人であれば、みんな応援したいと思ってる。僕もそういう人が頼ってくれるなら、力になりたい。あとはその人次第」

武器は手に入る。使い方も、仲間も、ここにある。あとは、自分のダンジョンを自分で攻略するだけだ──五年の現場史を経た坊の結論は、シンプルだった。

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